「民泊大学」の講義が始まります。今回の教授は大津山訓男さん。
昨年2017年4月、大津山さんが神戸の大学で講師を務める社会人向け『インバウンド民泊』の講義内容をベースに取材し、全5回の講義にてお届けいたしました。
今回は全5回の講義に未収録のインタビューに、大津山さん個人が民泊と出会ったきっかけを加え、今後の目標、大田区での課題や解決法などについて記事化いたしました。
【経歴】 元IBM2000年コンサルタント日本の100人に選ばれ、主にIT分野の先端企業の支援や海外進出支援をNPO方式で主宰するBeB協議会を1997年より12年主宰。 日本IBM事業部長を経てCCC増田氏、PASONA南部氏、ウェザーニューズ石橋氏、ADKなどの出資で、アットマークベンチャー株式会社を起業。数多くのベンチャー上場支援や海外進出を120社を支援。12社のIPOを成功させる。 東日本大震災以降は社会貢献活動にも注力し、起業を目指す若者やシングルマザーの民泊ホストを支援。「Airbnb」を学ぶ体験型ゲストを迎えスーパーホストとして大田区や福岡、愛媛、京都でコミュニティ組織化。 また、インバウンド業界で積極的に活動し、観光庁や地域観光協会とともに地域活性化に貢献している。 |
民泊に出会ったのはいつ?
民泊を始めたのは2年半前で、知ったのは 3.11(東日本大震災, 2011年)の時です。米国では被災地支援として、AirbnbやHomeAwayで民泊が活用されていることでした。それから2年後、Airbnbのホスピタリティの責任者と再会したのがきっかけで民泊ホスト生活に踏み切ることにしました。元々IBM時代に私がホテル業界を担当しており、彼は当時ラグジュアリーホテルのトップでした。Airbnbのセミナーで彼と再会した時に、Airbnbが他のマッチングサイトとは全く別のものであるとわかりましたね。
「星野リゾートのホスピタリティと、バルセロナのホストのクオリティを、全ホストに広めるんだ」と、Airbnbは当時クオリティマネジメントのスタッフを東京とバルセロナでの勤務を条件に募集しており、星野リゾートの品質管理と世界有数のインバウンド観光都市バルセロナの成功事例を同時に学ばせるというのは、今までにない考え方で面白いなと思いました。
日本人だと “おもてなし” ができるが、中国人スタッフだと難しい。中国は資本力があるので、星野リゾートのような宿泊施設をつくっては見たものの、そこに人という資源がないためできなかったんです。
日本で新経済連盟がシェアリングエコノミー時代を提唱していますが、大企業のトップは、Airbnbに宿泊したことがないでしょう。一方でAirbnbのトップは、全員、民泊に宿泊しています。企業価値3兆円の社長でも既に100泊以上宿泊しており、トップ全員が体験している。これは今までのホスピタルインダストリーの人々と違うなと感じました。
そこで、僕がまず始めたことは稼いだお金を全て使ってAirbnbで60泊宿泊しにいったんです。ハワイやドバイ、シンガポール、の民泊ホストの方々のスキルを教わりました。彼らをベンチマークしてみると、ITのスキルがあることがわかり、若い人々にスキルトランスファー(技術移動)できれば、良いなと思いました。
それと比べると、今の日本における民泊業界の人々はどうか?
現在上手くいっている民泊運営代行AirBestの社長など、ホスピタリティについてを理解している人もいます。ビジネスを分かっていて、ウィークリーマンションなどの業態、不動産業界の生き残りのセンスがある人々です。
一方で、現在の個人民泊ホストは分かっていない方も数多くギャップがあります。今回、民泊新法(住宅宿泊事業法)が成立することで、(ホストの中には旅館業法の)簡易宿所を取得して(ホテル運用の)プロになる人々がいますから、彼らに潰されてしまう可能性があります。
また、民泊に対して投資ができるようになりますから、お金があって経営者としてのセンスがある人々は皆始めるのではないでしょうか。上場不動産企業の社長はほとんどやっていますから。
その中でホストがプロと差別化できることは何か?
株式会社レーサムが運営するコミュニティ・ホステル『WeBase鎌倉』
「コミュニティ」だと思います。
地域内で100〜200人が集まって民泊運用の知見を共有すること。ホテルは一気に多展開することはできないので。実際の例として鎌倉にレーサムという上場企業が20億くらいを投資してつくったコミュニティ・ホステルがあります。
レストランやヨガスタジオなど様々なノウハウが詰まっています。また(地域内での)稼動率などは民泊ホストの方が知見があるのではないでしょうか。
大津山さんの今後の目標は?
グレーゾーンが産業化するタイミングに関わっていきたいです。また、そこで登場したオーナーシップのある経営者が継続するようサポートしたいと思います。
日本のインバウンドはまだ2,000万人程度、スペインは7,500万人インバウンドで来ていますが、国は破綻しています。しかし、破綻していても日本よりも皆豊かなんです。医療費が無料で、家は古いですが(取り壊さず)大切にしています。
アベノミクスは借金をして新築をフルローンで立て直し、30年たったものには価値が無いという考え方で、それが空き家増大につながっています。それを改めさせたいと考えています。
この家(取材で伺った大田区の大津山氏の家)も築30年ですが、400万円をかけてリノベーションをして民泊運用すれば400万の利益が生まれ、そういった物件が大田区に6万件あります。
それがやっていきたいご奉公でしょうか。
大田区の空き家の現状とは?
高齢化社会で大田区でも周りの多くの人々が亡くなっていきます。独居老人が亡くなった後、財産の処理としてダンプカーが生活用具を回収にきます。そして家は売買価格3分の1で1週間のうちに叩き売られます。これが、6万件ある空き家の現状です。
一方で、家を購入した人は3分の1で買えました。1,000万円のリノベーションをして、5人連れの子供が来ました。活性化の為に大田区では必要でしょうね。
他には、かつてモノづくりで栄えた大田区に9,000工場あったのが、現在は2,000工場に減少しています。ニューヨークでも工場のリノベーションがされるなど面白いまちづくりの取り組みがありました。
インバウンドだけではなくカフェをつくるなど、まちづくりでやるべきことが沢山あります。
大田区を活性化させる方法は?
3点考えられるかと思います。
1つ目は、アジアの方々が起業する村「アジア起業村」をつくって、ビザを緩和してそこで起業してもらうこと。モノづくりの歴史があるのでそういったやる気のある方と組み合わさると面白いのではないでしょうか。
2つ目は、町おこしで活性化して外に出た人々を戻すこと。
3つ目は、バルセロナのクルーズ船ツアーといった体験を提供すること。日本は海が資源なので、横浜や東京港にもっと多くの人々を連れてくることができるのではないでしょうか。
大田区で実現可能なアイデアは?
一つは先程言ったように、地域の人を呼んでコミュニティ内での意見交換会ですよね。
あとは、裕福なアジアの方々へ向けて何か体験型のコンテンツを用意できれば良いと思います。例えば、アウディのインセンティブツアー(報償によるツアー)は羽田に来ます。そのツアー料金は全てディーラーが払っています。1人2万円だとすると10人で一日20万円、5社とれれば100万円ですね。
豊かになったアジアの方々がご褒美ツアーとして日本へ来る。羽田にはアラブの王様も来ていましたから、VIP向けのコンシェルジュなども可能性がありますね。今後はそういったツアーが増えていくことが予想されるため、大手広告企業や旅行企業などを巻き込んで大田区でビジネスにしていきたいですね。
大田区で活用できるスペースは?
大田区体育館は2年前にエアロビクスの大会で利用されていました。他には、JALがの機内整備場を利用して『TED×羽田』を開催していますね。(参考:JALは、「TEDxHaneda(2016)」に協賛します http://press.jal.co.jp/ja/release/201606/002718.html)
「大田区産業プラザPiO」もありますし、住宅地の空き家も使えます。それ以外には、キャノン工場やヤマト物流センターなど企業のオペレーションセンター、大ホールとホテルが併用されているANAのCA研修センター(下丸子)といった、企業内施設の建物も活用できると思います。
編集部
いかがでしたでしょうか。大津山さんへインタビューしたのが、昨年2017年4月。まだ民泊新法(住宅宿泊事業法)成立前でした。現在も、色褪せることのない主張で非常に説得力があります。大津山さんが主宰の大田区ゲストハウスコミュニティでは、現在でも大津山さんが自ら情報発信やホスト向けにmeetupを行っておりますのでご興味のある方はぜひFacebookグループに入会してみてください。
大田区ゲストハウスコミュニティー
https://www.facebook.com/groups/1490482474589327/