【保存版】建築基準法改正のポイント 

建築基準法の改正案が平成30(2018)年6月27日に公布され、令和元年(2019年)6月26日までの施行が予定されています。民泊をはじめとした宿泊施設にも大きく影響する内容に関して、今回は建築基準法改正のポイントについて、できるだけわかりやすくご説明いたします。

今回の改正は、空き家が増加傾向にある中で、住宅を宿泊施設などそれ以外の用途に変更して活用することが求められており、安全性の確保と既存建築ストックの有効活用を両立しつつ、建築規制を合理化していく必要から成立したものです。

○建築基準法改正の重要な2つのポイント

まず、今回の改正のポイントは2点です。

①「3階建の戸建住宅等を他用途に転用する場合の規制の合理化
→延べ面積が200㎡未満の3階建ての建築物について、一定条件をもとに「耐火建築物」としなくてもよい。

②「戸建住宅から他用途への転用の際の手続き不要の対象を拡大
→建築基準法上の用途変更申請手続が不要になる基準が100㎡から200㎡に。

○解説

令和元年6月26日までに施行される改正建築基準法の2つのポイントの解説ですが、まず

①「3階建の戸建住宅等を他用途に転用する場合の規制の合理化」について
→延べ面積が200㎡未満の3階建ての建築物について、一定条件をもとに「耐火建築物」としなくてもよい。

現状の旅館業法における簡易宿所営業または旅館・ホテル営業に関する建築基準では、3階以上の部屋で営業する際に、「耐火建築物」でなければならないとなっておりました。

また、耐火建築物ではない戸建住宅等の3階部分は用途をホテルまたは旅館等の用途に変更することができませんでした。

よって、3階建の建築物で「耐火建築物」でないものでは3階での営業ができませんでした。

今回の建築基準法の改正により、簡易宿所営業または旅館・ホテル営業を行う場合において、延べ面積が200㎡未満の3階建ての建築物については、一定の警報設備等を設置することを条件に、耐火建築物でなくてもよいことになります。

これにより、なかなか利活用が進まなかった木造3階建てのような建物についても、活路を見出すことができるようになります。

②「戸建住宅から他用途への転用の際の手続き不要の対象を拡大」について
→建築基準法上の用途変更申請手続が不要になる基準が100㎡から200㎡に。

現行の制度では、戸建住宅等から、旅館・ホテルなどの特殊建築物への用途変更をする場合、用途変更をする部分の延べ床面積100㎡以下であれば、用途変更申請手続きが不要となっております。

日本国内にある戸建て住宅は、延床面積100㎡~200㎡のものが多く、用途変更申請手続にかなりコストがかかることもあり、既存建物の利活用が進まない大きな要因になっていました。

今回の改正によって、用途変更する部分の延床面積が200㎡までは用途変更申請が不要となりました

つまり、200㎡以下の戸建住宅等で旅館・ホテル営業をしようとした場合には用途変更申請のコストをかけずに営業許可申請ができることになります。

そして、用途変更手続をする場合、「検査完了済証」を提出しなければなりません。検査完了済証とは、「建築物及びその敷地が建築基準関連規定に適合している」ことを証する文書で、その建物が法律の基準に適合していることが認められたときに交付される書類です。検査完了済証は後述する「既存不適格建築物と違法建築物」を見分ける場合に必要な書類となります。ところが、新築工事や増改築工事を行なった建物で検査完了済証が発行されていないものが古い建物であればあるほど多く存在しています。1998年度時点の完了検査率(検査済証交付件数/建築確認件数)は38%となっていますが、かつては5%〜20%程度だったともいわれています。

建築基準法では、多くの改正を重ねているため建築時には基準を満たしていたものが、法改正によって基準を満たさなくなるという建築物が多く存在します。このような建築物のことを「既存不適格建築物」といいます。

既存不適格建築物とは、建築当時は適法だったものがその後の法改正などによって、現行の法令に適合しなくなってしまった状態の建築物のことをいいます。違法建築物との大きな違いは、建築当時には適法であったがその後の法改正のタイミングで適合しなくなったというところです。既存不適格建築物はあくまでも当時の法令を守って建てられたものであり、新たに増改築工事や用途変更などをする際には現行規定への適合が求められます。既存不適格建築物を建設時と同様の用途で利用している場合には合法な建築物とみなされますが、それを建設時と異なる用途に変更する場合、一定の是正義務が生じる可能性があります。

前述した検査完了済証は、既存不適格建築物か違法建築物かを明らかにするために用いられます。したがって、検査完了済証が発行されていない建物について用途変更手続をしようとした場合、用途変更申請をするのはかなり難しいのが現実です。ガイドラインに沿って指定確認検査機関等が法令適合を証明する方法もありますが、建築当時に遡って法令適合を確認することになりますので増改築などをしている建物についてはその証明は難しいことになります。

今回の改正によって既存不適格建築物である200㎡以下の戸建住宅を他の用途に変更しようとした場合には用途変更申請は不要になりますが、用途自体は変更されるので現在の建築基準に適合させる必要があります。

また、既存不適格建築物でない200㎡以下の戸建住宅を旅館・ホテルとして営業しようとした場合も、用途変更手続が不要になっているからといって旅館・ホテルに必要な建築基準を満たさなくてもいいと言うわけではありません。

検査完了済証が交付されていない物件についても、200㎡以下のものであれば旅館業申請が可能という認識をしている方も多いのですが、そういうことではありません。

改正理由にも記されていますが、「建築物の用途の制限に係る特例許可手続の簡素化」ですので、建築基準の制限が緩くなるわけではありません。用途変更をする際には変更後の用途の建築基準を満たしていないと違法建築物になってしまいます。用途変更に関する手続が不要になるだけですので建築基準を満たす必要があるのです。

なお、旅館業ではなく住宅宿泊事業として営業をする場合には住宅からの用途変更自体が要りませんのでで、既存不適格建築物のまま営業することができます。

○まとめ

今回の改正をまとめると、

①「3階建の戸建住宅等を他用途に転用する場合の規制の合理化
②「戸建住宅から他用途への転用の際の手続き不要の対象を拡大

上記、2つがポイントとなります。

このように、戸建住宅を旅館業法における旅館ホテル営業に利用しようとする際には建築基準法が大きく関わってきます。国土交通省のデータによると、戸建住宅の90%以上が200㎡以下の建物ですので、今回の耐火構造や用途変更手続の省略に関する改正によって旅館業の要件を満たす物件が大きく増加すると考えられます。

6月末までには改正建築基準法が施行される予定ですので、対象となる不動産をお持ちの方は旅館業での民泊やホテル運用を考えてみてはどうでしょうか。

参考資料
国土交通省「建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000097.html
国土交通省「既存不適格建築物及びその用途変更に関する資料」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/chiiki/150130/item1-1-2.pdf

執筆者プロフィール

黒沢怜央(くろさわれお)
株式会社ジーテック 代表取締役、Academic works 代表行政書士、特定行政書士特別委員会委員。2008年、行政書士事務所を開業して以来、多数の許認可業務、企業法務を執り行いつつも、「行政書士ネットワーク」の主宰や、大学、独立行政書士法人、大手資格学校講師として活動。ドローンや民泊といった先端領域のパイオニアとして活動。2018年1月、行政領域におけるITソリューションを軸とした株式会社ジーテックを設立、代表取締役就任。
民泊許可・届出手続きのクラウドサービス「MIRANOVA(ミラノバ)」を提供。

飯田森(いいだしん)株式会社ジーテック 国学院大学大学院法学研究科在学中。2016年行政書士試験合格。飛び級で大学院に進学し、主に電子手続きや民泊をはじめとしたシェアリングエコノミーについて研究している。