【復刻・民泊革命】民泊が開く新時代 筆者・児山氏が連載を振り返る

今年6月の通常国会で民泊新法が成立し、脚光を浴びている民泊業界。その民泊業界を1年半前から継続してウオッチし、業界の動向を広く発信し続けてきたのが、民泊コンサルタントの児山秀幸氏だ。

その児山氏が不動産業界紙・週刊住宅で計64回にわたって連載してきた「民泊革命」シリーズが、掲載の場を民泊大学に移して復活されることになった。

民泊大学では、現在連載第5回までを公開中。全64回の連載を、児山氏のコメント付きで復刻版として掲載していく。今回はその復刻を記念して、児山氏に過去に書いた連載について振り返ってもらった。

「民泊革命」を始めたきっかけは?

自分から企画を持ち込んだのが始まりです。

2015年半ば、マスコミで民泊という言葉が使われ始めました。調べてみると、全国に2万件以上の民泊物件が既にできていました。ところが、それを管轄する保健所の見解としては、基本的に全て旅館業法違反とのことだったのです。しかし、宿泊需要があってビジネスが成立しているのであれば、多少のコストをかけても、いずれこれらの施設は大部分が許可を取得することになるだろうと予想しました。

自分は同年8月士業専門の広告代理店から独立したところでしたが、前職では許認可を扱う行政書士の方々とは深くおつき合いをしていました。そこで、行政書士の方々と協力して民泊の合法化のお手伝いをできないかと、民泊と旅館業法、戦略特区などについて調査を進めていました。すると、11月下旬になって日本経済新聞から「来年4月から民泊は簡易宿所として許可を取らせる方針」という報道があり、いよいよ機会が来たと思いました。

そこで、思い浮かんだのが不動産業界紙「週刊住宅」を発行する週刊住宅新聞社さんでした。同社は出版も手がけており、以前「家族で話すHAPPY相続」という共著を同社で出版したこともあって、懇意にしていたのです。そこで、民泊に関して連載で触れたい内容のリストを作り、提案したところ「ちょうど民泊に力を入れたいと思っていたところです。是非書いて欲しい」とお互いのタイミングがピタリ合い、連載がスタートすることになりました。

今もそうですが、当時も不動産業界や不動産オーナーの間では、空き家の問題が注目を集めていました。2013年秋の段階で日本全国の空き家は820万戸あると言われていました。少子化の中、将来的にも国全体で不動産需要が減り、新築のペースが落ちない中では空き家がドンドン増えていくことが目に見えています。そうなると不動産のオーナーは、賃貸借以外の不動産の活用法を考えないといけません。

そのため、外国人観光客の宿泊者が増え、ホテルが足りなくなる状況に、民泊も不動産活用の一形態として、不動産オーナーや不動産業界の方々からの注目を集めつつありました。「週刊住宅」の読者は不動産関係の会社の方や不動産の大家の方が多かったので、民泊の解説記事はちょうど待たれていたコンテンツだったんです。

2016年1月連載開始にあたり、何から取り組み始めたか

忘れていたのですが、改めて確認すると、色々なことをしていました。ネットで次々に出る情報のスクラップ、旅館業法や戦略特区に関する議論の経緯を押さえることは当然として、民泊運営代行会社や旅館業許可に強い新宿や大阪の行政書士の先生に話を聞いたり、コンサルの行うセミナーに出てみたり、自分でも実際に民泊に泊まったりしました。

ただ、一番強い影響を受けたのは、厚労省と観光庁が主催する「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」の傍聴ですね。回数も第2回から第13回までの12回、期間も2015年12月から2016年6月まで半年以上に渡って傍聴し続けたので、ボリュームもかなりのものでした。

最初「民泊革命」は民泊を始めたい人たちに向け、民泊入門的な内容を柱に書くことを想定していました。しかし、12月に行われた第2回の検討会を目の当たりにして、考えが変わりました。

先に触れた日経の記事を見た時、自分は民泊合法化の流れが国全体でスムーズに進んでいくだろうと感じました。しかし、「検討会」に足を運んでみると、旅館業界の方がホスト不在型の民泊を頭から否定し、日経の記事についてこんなことが決まっているのなら、もう検討会はやめた方が良いと検討会の事務方である厚労省や観光庁にかみついていました。それに対し、政府の担当者は何もまだ決まっていない、記事は新聞社の勇み足だと回答し、後に新聞社に対して注意をしていました。

民泊をめぐって交わされる熱い議論。その議論の行方がどうなるかを追い、民泊業界の方々に伝える必要があると、私は感じました。

なぜなら、検討会に参加する方々に、実際に民泊に泊まった方はほとんどいないこと、ましてそれを運営した経験のある方がいなかったからです。そういうメンバーが、70年前の法律に照らして許可を取っていないから取り締まらないといけないと議論している。

これで、本当に民泊が良いものなのか、悪いものなのか、本当にどういう問題がどれくらい生じているのか、どういう条件をつければ問題が生じないのかなど、有効な議論をできるか、疑問を感じました。

また、自分が関心を持って調べてきた旅館業の許可関係についても、行政書士や建築士、消防設備士などの専門家は参加しておらず、メンバーが間違ったことを言っても訂正されないことが何度かありました。中央官庁の担当者も、各自治体でどのように適用されているか、把握していないケースも多々見受けられました。

そんな状況であっても、民泊をするホストたちは、法律に反したことをしているという意識を持っていますから、誰も声を上げない。かなり例外的な扱いだったのですが、自分は週刊住宅にかけ合って連載記事をネットにアップしてもらい、そこで報告した検討会の状況をFacebookのグループで共有しました。民泊の運営ホストたちに少しでも危機意識を持ってもらい、民泊の良さを語ってもらいたいと思ったからです。民泊の良いところ、悪いところを一番理解しているのは、運営者ですので。