ゼロから頼れる民泊行政書士 藤野慶和さん 「大田区、いよいよ宿泊日数緩和へ」

「民泊大学」の講義が始まります。今回の教授は、ふじの行政書士事務所の代表行政書士、藤野慶和さんです。

「特区民泊」の許可申請や旅館業法上の許可申請業務の実績を多く積み、不動産物件を合法民泊へと変えてきたことで著名な藤野さんに、特区民泊の実態及び民泊の法整備の今後について、講義していただきました。

民泊に出会ったきっかけ

「民泊」という言葉さえもまだ世間に浸透していない頃でした。2014年の春でしたか、初期の段階から民泊をしている知人の話を聞いたのがきっかけです。

「シェアハウス」などは既に流行っていましたが、当初は民泊のことも「ゲストハウス」であったり、「バケーションレンタル」であったりと、かっこいい呼び名が付いていましたね。(笑)
知人のビジネスのコンサルティングを少ししていたのですが、かなりその「ゲストハウス」や「バケーションレンタル」にはお客さんが来るな、と思っていました。

その知人はアメリカの人からAirbnbを教えてもらったと言っていたので、日本の法律に照らし合わせて違法ではないのかと気になりました。たしかに、考え方によっては、1日から定期借家契約を結べるので、大丈夫かとも思ったのですが、よく調べていると、「待てよ、これ泊めてるからホテルと一緒じゃないか?」となりましたね。

当時は、民泊の法的側面を説明するウェブサイトもなかったのですが、ホテルと一緒ということは、旅館業法上の許可が必要になります。しかし、Airbnb掲載物件の多くが無許可物件のようでした。

ただ、渋谷や新宿の街を眺めていると、やはり多くの観光客がいたんですよね。いずれ需要に応えるため法整備が進み、無許可がまかり通る状況も解消されるだろうと感じ、半年以上ウォッチしていました。

ちょうどその頃、17年程勤めていた、農林水産省関係の独立行政法人を辞め、既に持っていた宅地建物取引士と行政書士の資格を活かすために独立しました。今後業界として民泊はどんどん発展していくと思っていましたし、実家が旅館業をしていたこともあって、旅館で育った身として、旅館業の背景などもよく分かっていました。旅館業法や、議論され始めていた「特区民泊」の許可申請は、ちょうど行政書士の業務の範疇なので、独立当初から、仕事で関われたら面白いなと考えていました。それで独立後に、行政書士として民泊を取り扱い始めたんです。

 

全国初の民泊特区、大田区について

大田区の最初の説明会に行った際、多くの人が参加していて、私自身参加者としてメディアから取材を受けたりしました。これは今後、合法民泊の一形態として特区民泊(国家戦略特別区域法に規定された特区で行われる民泊)が流行るなと思ったんですよ。ところが、蓋を開けてみると、盛り上がりの割には、あまり流行らなくて。

私は、おそらく大田区は実証実験だったんだと思っています。自治体からではなく国から特区の話について声をかけられたのではないでしょうか。大田区が特区になる前からウォッチしていましたが、大田区の特区民泊は、最低宿泊・利用日数を6泊7日でできるかなどを試す、住宅宿泊事業法(民泊新法)を作るための実験だったんだなと感じています。

おそらく大田区が選ばれた理由は、物件すなわち空き家が余っていたことと、土地の広さが大きいことではないでしょうか。大田区は23区の中でも一番広いので、建物も密集しておらず、民泊をしてもそれほど迷惑にならない物件がありそうだからではないですかね。蒲田や馬込の辺りなど、特に広々としていて、戸建てが多いですよね。

あとは羽田空港があることですね。区としては、羽田からの観光客がどうしても大田区を飛ばして都心部の区へ向かってしまうので、大田区で消費する機会を提供したい。羽田の周りの天空橋などであれば、空港近くのホテルとして需要はありますが、それ以外の場所だと、降りてわざわざ観光とならないですよね。だから区としても、特区民泊導入にあまりハードルがなかったのではないかと思います。

 

大阪と比べ、大田区の特区民泊がいまいち流行らなかった理由は?

やはり6泊7日の最低宿泊・利用日数ですね。

6泊7日をせめて大阪のように2泊3日にすれば流行るとは思ったんですけどね。今の状態だと、簡易宿所と比較した時に特区民泊で民泊を始める旨みというのが、コストをかけないで始められることぐらいしかありません。

※編注:なお、この点について今月18日に、大田区も最低宿泊・利用日数を「2泊3日」に引き下げる方向性であることを明らかにした。詳細については、「【大田区担当者に聞く】特区民泊、『2泊3日以上』への短縮を決めた理由と慎重姿勢を示してきた背景とは・・・?」参照。今月24日から11月6日までの期間、大田区はパブリックコメントを募集している。詳細については、ふじの行政書士事務所ブログの「大田区特区民泊が2泊3日に向けて始動!パブリックコメント募集開始!新法は規制の方向?」参照。

また、特区民泊の場合は近隣の住民に周知しないといけないという点が難しいですね。簡易宿所はこのような周知がいりません。大田区の特区民泊は、紙を撒いて近隣住民に周知しないといけないので、やはりこの点が特区民泊を選ばない一つの理由になっていると思います。民泊をすることを皆が知ってしまうので、特に理由も無いのに住民に反対するきっかけを作ってしまいます。たとえ近隣住民の反対には法的効力がないとしても、やはり行政としては、凄く反対されている物件について許可を出しづらいですからね。

特区民泊の件数が伸び悩んでいる中でも、個人ではなく法人による特区民泊が最近増えているのは、ウィークリーマンション需要を狙っているものではないでしょうか。ウィークリーマンションは、通常の賃貸に比べ割高なので、儲かります。それに、一軒家を丸ごと貸すのではなく、マンション一棟のうち一室一室を貸し出せるので、利益も多く出せます。

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