民泊条例修正、大阪市議会で何が起きたのか 市長の推進宣言、民泊殺人事件、維新・自民・公明の申し入れ

2018年3月27日、大阪市。上乗せ制限なしの当初案から修正された大阪市の民泊条例案が、大阪市議会で可決された。幅4メートル以上の道路に面していない住居専用地域では民泊を全面禁止し、小学校の周辺100m以内では月曜正午から金曜正午まで営業が禁止される内容。大阪市と大阪市議会で何が起きたのか。そのドキュメントを追う。

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年の瀬の会見、吉村市長「上乗せ制限しない」

大阪市の吉村洋文市長は年の瀬が迫った2017年12月28日、大阪市の民泊ルール案について記者会見で言及した。吉村市長は規制を強化することによってヤミ民泊が増えることを懸念し、民泊新法以上の上乗せ宣言をしないことを宣言。合法民泊への転換推進に向けて、補助制度も整備することに積極姿勢だった。

大阪市の民泊条例案が2018年第1回定例会(2・3月)に付託されたのが2月9日だ。住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊事業者の事前届出受け付けが3月15日に控える中、施行スケジュールの観点からはほかの自治体同様、法施行に間に合わせるためには窮屈なスケジュールだった。

大阪市議会に付託された条例案は吉村市長が会見で発表した内容に沿ったもので、全国の自治体の中でも民泊推進に積極的な自治体の一つとして注目を浴びた。吉村市長が記者会見で触れた通り、大阪市に対する訪日外国人の需要は大きい。大阪市のブランド力向上と観光事業のさらなる振興を民泊を通じて盛り上げる姿勢が、条例案の提出で一層鮮明になった。

◯民泊条例、大阪市が「上乗せ制限しない」宣言 合法化推進へ補助制度も整備へ 吉村市長「規制強化してヤミ民泊を増やしたら無意味」|民泊大学

維新・自民・公明が吉村市長に修正申し入れ

大阪市は民泊推進都市になる——。そんな期待感が民泊事業者からも挙がったが、大阪市の民泊条例案提出から2週間後の2月23日、風向きが変わる。大阪維新の会と自民党、公明党の各会派が吉村市長に条例修正の申し入れを行ったのだった。

その前日の2月22日、兵庫県警は女性を民泊施設に監禁した容疑で米国籍の26歳男性を逮捕していた。その後、女性とみられる遺体の頭部が大阪市西成区のヤミ民泊施設で見つかり、民泊に対して一部世論も厳しい目を向けた。大阪の民泊はどうなるのか——。民泊ホストのSNSコミュニティでも不安や懸念の投稿が目立ち始めた。

条例案に対する申し入れでは3地域における全面禁止を求めた。それが①住居専用地域・住居地域②騒音・防災・防犯面等で課題が多い地域(道路幅員4m以上の道に接する敷地は除く)③学校などの周囲100m—の3地域だ。この申し入れも契機になり、大阪市の民泊条例案可決は事前届け出の開始に間に合うか微妙な状況で審議が続くことになった。

その後、大阪市は民泊条例案の修正に舵を切った。3月上旬、大阪市の吉村市長は「住宅宿泊事業法(新法民泊)に関する条例修正案の考え方について」と「違法民泊撲滅チームの設置」に関する書面を市議会の議員などに配布。

そしてその内容は奇しくも民泊の事前届出が始まった3月15日の翌日となる3月16日、大阪市議会の都市経済経済委員会で審査された。維新の岡崎太委員、自民の北野妙子委員、公明の永田典子委員と八尾進委員、共産の小川陽太委員が質疑に立った。

◯【インターネット録画放映】大阪市総合トップ>大阪市会>インターネット録画放映|平成30年3月16日 都市経済委員会(※外部リンクが開きます)

大阪市が条例修正に舵、ヤミ撲滅チーム構想も

大阪市が配布した条例修正案の考え方では、当初制限なしとしていた区域・期間の制限について、幅員4m以上の道路に接する区域を除く住居専用地域では全期間を禁止、小学校周辺100m以内では月曜正午から金曜正午に民泊を禁止する内容だった。一方、家主居住型(ホームステイ型)については規制を行わないという内容を盛り込んだ

パスポートの写しの保存と必要に応じた苦情の現地対応も民泊ルールとして追加。「風増営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」を遵守することも、新たに民泊事業者に求めることを示した。市長をトップとする違法民泊撲滅チームの設置をすることも説明した。

そして2018年第1回定例会の閉会日である3月27日、大阪市が提出した修正案が共産党以外の賛成多数で可決された。2月9日に議会提出された34議案のうち、可決が閉会日である3月27日までのびたのはこの民泊条例ただ1案だけだった。申し入れなどで議論の対象となった住居専用地域の全面禁止などを盛り込んだ内容は否決される形となった。

◯議案第19号大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例案の一部修正の承諾を求めることについて(大阪市長提出)

分かれる各自治体の民泊に対する対応、今後は…

民泊新法では各自治体に対し、周辺住民の生活環境が悪化することを防止することなどを目的に、条例によって区域・期間を定めた上乗せ制限を行うことを認めている。

民泊新法と同時の条例施行を見送った自治体、上乗せした自治体、上乗せせずに合法民泊の推進を目指す自治体…。各地域で対応が分かれる形となったが、その後のパブリックコメント(意見公募)や委員会審議で、条例案内容を緩和したり、厳しくしたりと、大阪市を含めて修正がなされた自治体も出てきている。

条例は2〜3年の期間を経て、実施状況などによっては見直される可能性もある。2〜3月に開かれる第1回議会における各自治体の議論はほぼ終わりを迎えた。今後の民泊に対する政府・自治体の考え方、世論の目がどう変わっていくのか、注視していきたい。