東京都中央区(区長・矢田美英)が今月26日に発表した民泊条例素案。区内全域において月曜正午から土曜正午までの民泊実施を制限することが柱となっているが、この規制が住宅宿泊事業法(民泊新法)ガイドライン(→全文)に沿わない懸念があるして、波紋が広がりつつある。
観光庁がこのほど発表した民泊新法ガイドラインでは、「都道府県等の全域を一体として一律に制限すること等は、本法の目的を逸脱するものであり、適切ではない」としている。そのため、中央区が発表した民泊条例素案を民泊新法ガイドラインと比較すると、この「不適切規制」に該当するようにも読める。
【解説】民泊新法ガイドライン、必ず知っておきたい35の重要ポイント 管理業務再委託はOK? 受入拒否はNG? 非常用照明は必要? 対面確認は必須?|民泊大学
現在判明している各地方自治体の民泊条例案では、主に規制対象を住居専用地域や学校周辺、別荘地周辺などとしてきた。自治体全域で民泊を一律に規制する方針の東京都中央区は全国初のケースとみられている。
東京都中央区はこの民泊条例素案について、今月26日から来年1月17日までパブリックコメント(意見公募)を実施している。仮にこのまま素案の内容が変わらずに議会可決を経て成立した場合、中央区内の特に「不在型民泊」に与える影響は大きい。区は条例素案の骨子の中で、条例制定の目的について「住宅宿泊事業者と周辺地域の区民との信頼関係の構築を図り、もって、観光の振興に寄与すること」としている。
地方自治体の条例については、最高裁判所が2009年11月、全国で初めて条例制定に処分性を認めた判決を出し、全国的な注目を集めている。(参照:最高裁判所|横浜市立保育園廃止処分取消請求事件)
中央区住宅宿泊事業の実施に関する条例(仮称)骨子(案)
1 目的
この条例は、住宅宿泊事業が届出住宅の周辺地域に居住する区民(以下「周辺地域の区民」という。)の生活環境に与える影響に鑑み、住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号。以下「法」という。)及びこれに基づく命令に定めるもののほか、中央区(以
下「区」という。)が住宅宿泊事業に起因する事象による生活環境の悪化を防止し、及び住宅宿泊事業者の住宅宿泊管理業務の適正な運営を確保するための措置を講ずることにより、住宅宿泊事業者と周辺地域の区民との信頼関係の構築を図り、もって、観光の振興に寄与することを目的とするものとする。
2 定義
この条例で使用する用語の意義は、法で使用する用語の例によるものとする。
3 住宅宿泊事業の実施の制限
(1) 法第18条の規定により住宅宿泊事業の実施を制限する区域(以下「制限区域」という。)は、区の全域とするものとする。
(2) 法第18条の規定により制限区域において住宅宿泊事業の実施を制限する期間は、月曜日の正午から土曜日の正午までとするものとする。
4 区の責務
(1) 区長は、住宅宿泊事業に関する必要な情報を区民に提供するものとする。
(2) 区長は、住宅宿泊事業の適正な運営の確保を図るため、関係機関との緊密な連携を図るとともに、必要に応じ、当該関係機関に対して適切な施策又は必要な措置を講ずるよう要請するものとする。
5 住宅宿泊事業者の責務
住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業が周辺地域の区民の生活環境に影響を与えることを深く自覚し、法及びこれに基づく命令に基づき住宅宿泊管理業務の適正な運営を果たすよう努めなければならないものとする。
6 宿泊者の責務
宿泊者は、届出住宅を利用するに当たっては、届出住宅の周辺地域の区民の生活環境に悪影響を及ぼさないよう努めなければならないものとする。
7 周辺地域の区民への周知
(1) 住宅宿泊事業を営もうとする者は、法第3条第1項の届出(以下「届出」という。)をする7日前までに、周辺地域の区民(周辺地域の区民が居住する住宅がある建物が2以上の区分所有者(建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律
第69号)第2条第2項に規定する区分所有者をいう。)が存するものである場合にあっては、管理組合(マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)第2条第3号に規定する管理組合をいう。))に対して、次に掲げる事項を説明会、書面その他周辺地域の区民が住宅宿泊事業の実施について知ることができる方法により周知するものとする。当該事項を変更したときも、同様とするものとする。
ア 商号、名称又は氏名及び住所
イ 法人である場合においては、その役員の氏名
ウ 届出をした者の連絡先
エ 住宅の所在地
オ 住宅宿泊管理業務の委託をする場合においては、住宅宿泊管理業者の商号、名称又は氏名、住所及び連絡先
カ 住宅宿泊事業を開始する日
キ アからカまでに掲げるもののほか、区長が必要と認める事項
(2) 住宅宿泊事業を営もうとする者は、届出をするときは、前項の規定による周知をしたことを区長に報告するものとする。
8 住宅宿泊事業者の公表
区長は、届出を受理したときは、住宅宿泊事業者に係る前条第1項各号に掲げる事項を公表するものとする。当該事項を変更したときも、同様とするものとする。
9 宿泊者への対面による説明
住宅宿泊事業者は、宿泊者に対し法第9条に規定する説明をするときは、対面その他確実に宿泊者を確認できる方法を用いて説明する体制を確保することに努めなければならないものとする。
10 廃棄物の適正な処理
住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業の実施により発生した廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないものとする。
11 苦情等及びその対応の記録
住宅宿泊事業者は、法第10条の規定による対応をしたときは、次に掲げる事項を記録し、当該記録の日から3年間これを保存するものとする。
ア 苦情又は問合せ(以下「苦情等」という。)を受けた日
イ 苦情等及びその対応の内容
ウ ア及びイに掲げるもののほか、区長が必要と認める事項
12 災害等への対応
住宅宿泊事業者は、地震、水災、火災等の災害又は周辺地域の区民からの苦情等に速やかに対応することができる体制を確保することに努めなければならないものとする。
13 準用
5及び9から12までの規定は、住宅宿泊管理業務の委託がされた届出住宅において住宅宿泊管理業を営む住宅宿泊管理業者について準用するものとする。この場合において、9中「法第9条」とあるのは「法第36条において準用する法第9条」と、11中「法第10条」とあるのは「法第36条において準用する法第10条」と読み替えるものとする。
14 委任
この条例の施行について必要な事項は、区規則で定めるものとする。
15 施行期日
この条例は、平成30年6月15日から施行するものとする。ただし、次のア及びイに掲げる規定は、当該ア及びイに定める日から施行するものとする。
ア 7の(1)の規定 公布の日
イ 3、7の(2)及び8の規定 平成30年3月15日