先日、私の手元へ札幌地方裁判所より民泊行為等差止仮処分申立事件の取下書が届きました。本事件(→コラム)の審尋期日呼出状が届いたのが去年の2018年です。本事件において、住民と私との関係は裁判になる前までさかのぼりますので約3年、つまり2016年になります。
事件名:民泊行為等差止仮処分申立事件
証書とされる分厚い書類は代理人弁護士から郵送され、内容を読んだ感想として「地域課題を弁護士へ依頼、弁護士費用を支払うことで、すべての物事が解決するのだろうか。」を疑問に感じました。
当民泊物件は分譲マンション4階の1室約50㎡です。 その民泊物件はリフォームされることもなく、ボロ分譲マンションの1室、ホストさんがリフォーム費用を用意し民泊運用することになりました。運用がスタートすると人気物件となり、海外から来札されるファミリーやグループが利用することとなります。 物件そのものに感情があるとすれば、室内を多くの人が滞在してくれることに喜んでいたと思います。
マンションは築40年 地上4階(RC・階段のみ)総戸数24戸(現状9戸が入居者募集中)で。外階段のためオートロック・エントランスはなく、地下鉄の駅まで徒歩7分。
私は民泊ホストをされている方の代理として、マンション管理組合長の自宅、管理組合の総会、臨時総会へ参加をしてきました。 総会では、マンション管理組合と管理会社は「不動産に強い弁護士に頼んだので安心」と話していました。 ほかにも修繕積立金を滞納している、車検の車を運転しているなど欠席されている入居者の生活の様子などが話し合われていました。
私はここで話しても解決するのだろうか?と思いながら、その井戸端会議を静観していました。 臨時総会には担当される、不動産に強い弁護士2名も出席しており、民泊を禁止する規約が提案され反対意見を述べる機会も与えられず可決しました。 その後、担当弁護士の方へも電話で解決策を提案、 私を訴えても民泊をやめさせることにつながらない。運営しているホスト、仲介サイトと交渉をするべき、またこのような民泊を認めることも一つの方法と伝えましたが裁判となったのでした。
とある弁護士の方からは、私が負けを認めた方が得策との電話もありましたが、 私はこの裁判を楽しみにしており勝ち負けではないと思っていました。もちろん弁護士へ依頼する必要性も感じませんでした。
当時、住宅宿泊事業法(民泊新法)施行前ということもあり、この事件、裁判を通して賃貸契約と宿泊・ホームステイとの違いなどを争点にすることで、司法見解を聞くことができたらと期待していました。書類の中に、「南氏は地域活性は人間活性と題して、民泊の有用性を主張している」と記載されており、相手側から私はそのように見えていると認識することができました。
ほかには本件の民泊管理代行の移行に伴う、前民泊管理会社と私とのFacebookメッセンジャーのやりとりが記載されており、「この程度の内容も裁判資料になるのか?」と正直驚きました。
私の期待していた司法判断の議論には至らず、計3回ほど裁判所へ出頭し答えられる内容に応じる程度でした。あまりにも初歩的なネット検索で把握できる質問は「答えたくありません」としました。
その間も保健所指導の呼び出しがあり、住民から連絡があった民泊物件一覧について話し合いがあり、本物件は裁判中となったことを保健所へ伝えると担当者は指導をすることを控えている様子でした。
物件の管理を依頼されている以上、私は何度となくその物件へ足を運ぶのですが、その度に、住民の方から「なぜ民泊を続けるのか?」と話しかけられ、腕をつかまれたり、画像を撮られたりすることが続きました。
その度に私は「裁判中なので、ここで当事者同士が話すことは適当ではないと思います」と伝えるも、次回物件へ伺うと同じ内容の問答が続く、そんな状況が続きました。
住宅宿泊事業法(民泊新法)施行前にも関わらず「民泊保険」「民泊Wifi」「民泊家具設置」など大手企業が続々と民泊に関連するサービスを打ち出しています。それらは良くて「民泊清掃」は目のカタキにされる存在でした。
私は民泊ホストの方と話し合った結果、管理組合の理解がない中で運営を継続することは住宅宿泊事業法上困難と判断し、法施行直前にリスティング(民泊)を閉じることにしました。
結果的には、住宅宿泊事業法施行前までの期間、訴えを起こされながらも2年以上も運用は続いたのです。 民泊運営をクローズ後、半年以上もの間、裁判所から続々と「特別送達」で、札幌地方裁判所の封書が私の自宅へ届きます。
最初はドキドキしましたが、徐々に「またか」と慣れていくものです。 開封するとマンション管理組合・代理人弁護士から「損害賠償請求 金〇〇十万円」と書かれています。その金額からマンション管理組合が担当弁護士へ支払った金額を私へ請求しているのでしょう。 私はその損害賠償請求に応じることなく時間が経過、そして取下書が届いたのです。マンション管理組合は、当事者同士で話し合い解決できる内容を無駄な時間と弁護士費用をかけることになりました。
住宅宿泊事業法施行前の民泊実態は、民泊運用プレーヤーは法律や社会の流れを掴むことができる士業の方や行政の方、サラリーマンなどが副業で参加していました。そして我々のような民泊事業者が現場で物件の管理や清掃・行政対応などをサポート・担当していたのです。マンション管理組合の住民、マンション管理会社、そして担当弁護士は、その本丸であるプレーヤーを把握、接触することなく本事件を終えたのです。
南邦彦