【保存版】民泊で必要な「消防法令適合通知書」のポイント

民泊をはじめとした宿泊施設を運営する際には、旅館業法や住宅宿泊事業法(民泊新法)が関連してきますが、宿泊者の安全の確保にも関わるため、その建物自体に関わる建築基準法や消防法などの法律も重要となってきます。つまり、民泊事業を行うためにはそれに関わる様々な法律について調べなければなりません。

今回はその中でも消防法にまつわる「消防法令適合通知書」について解説したいと思います。

消防法令適合通知書とは

消防法令適合通知書(以下、適合通知書)とは、旅館・ホテル営業などに関する法令等に基づく許可申請を行政機関に対して行う場合に添付が必要になる書類です(旅館・ホテル事業と住宅宿泊事業の違いについては後ほど紹介します)。

適合通知書の交付には、提出書類の審査及び現場検査等を実施して、該当する建物に関する消防設備の設置や防火管理者の選任状況などが消防法令に適合することが必要です。
例えば、旅館業を行う際には自動火災報知器や誘導灯などの消防設備を設置することが消防法で求められます。そしてこれらの設備を満たしている建物に対して適合通知書が交付されます。

○旅館業・特区民泊・住宅宿泊事業の違い

適合通知書は法令で定められている場合に提出が必要になります。消防法では旅館業の許可申請を行う場合に適合通知書の提出を義務付けています。

また、特区民泊は旅館業法の特例ですので旅館業と同様、認定申請を行う場合に適合通知書の提出が義務付けられています。

一方、住宅宿泊事業の届出を行う場合に適合通知書の提出を義務付けている法令はありません。

しかし、住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)には、「都道府県知事等は、「その他国土交通省令・厚生労働省令で定める書類」のほか、届出住宅が消防法令に適合していることを担保し、住宅宿泊事業の適正な運営を確保する目的から、消防法令適合通知書を届出時にあわせて提出することを求めるものとする。」と規定されており、実際に多くの自治体では届出の際に適合通知書の提出を求めています。

また、ここでいう「求める」という文言は「必須」とは異なるので注意が必要です。

○住宅宿泊事業で適合通知書が必要になるのはいつ?

ここまで見てきた通り、住宅宿泊事業をする際に法令では適合通知書の提出について規定はないものの、ガイドラインでは適合通知書の提出を求めることを規定しています。

では、実際に自治体はどのように運用しているのでしょうか。

これには2つのパターンがあります。

①「条例で住宅宿泊事業の届出時に添付するものと規定されている」
→届出時に適合通知書が必要

②「条例で住宅宿泊事業の届出時に添付を要求しない」
→届出時に適合通知書が不要だが、営業開始時には必要な消防設備を設置していることが必要

順に見ていきましょう。

①「条例で住宅宿泊事業の届出時に添付するものと規定されている」場合

まず、①の場合には、条例で住宅宿泊事業の届出の添付書類として適合通知書が含まれているので、届出までに適合通知書の交付を受けて添付する必要があります。これは、届出をするタイミングで消防設備を設置していることが必要であるということを意味しています。届出時に添付を要求する自治体は少なからずあります。

②「条例で住宅宿泊事業の届出時に添付を要求しない」場合

次に、②の場合には条例で住宅宿泊事業の届出の添付書類として適合通知書が含まれていないので、届出のタイミングで提出する必要はありません。したがって、届出をするタイミングで消防設備を設置していることは不要です。

しかし、このような自治体では届出時では「消防事前相談記録書」という書類の添付が必要な場合があります。この「消防事前相談記録書」とは、届出者が事前に消防機関と消防法令の適合状況などを確認したことを証明するものです。東京23区は原則として「消防事前相談記録書」に受理印があれば、それをもって届出の添付資料として認めています。

ではこの場合、どのタイミングまでに適合通知書の交付を受ける(消防設備を設置する)必要があるのでしょうか。

総務省は、「民泊事業の開始直後から消防法令で求める防火措置を遵守することが必要であるため、消防機関では、消防法令適合通知書の交付を行っています。」としています。

つまり、住宅宿泊事業の営業開始日に消防設備を設置していれば良いということになります。

○民泊の営業開始日とは、どの時点のことか

住宅宿泊事業は自治体ごとに運用が大きく異なり、届出時に適合通知書が不要としている自治体において、「営業開始日」とはどのタイミングなのか、という点が重要になってくるでしょう。

この解釈に関しては、まだ明確な回答はありませんが、民泊の営業開始日として考えられるタイミングは以下の5つです。

①届出時点
②届出番号の発行時点
③民泊仲介サイトへの掲載時点
④宿泊者が予約した時点
⑤宿泊者が実際に泊まりに来た時点

順に見ていきましょう。

①届出時点

行政に対して住宅宿泊事業の届出をすることで営業を開始することが可能になります。ですので、営業開始可能日を基準に考えるということもありえるかと思います。
しかし、自治体があえて届出時に「適合通知書」ではなく「消防事前相談記録書」の提出を求めていること、届出時と営業開始日が存在することからそれらは分けて考えるべきでしょう。

届出番号の発行時点

自治体は住宅宿泊事業の届出があった施設について、目安として約2週間後に届出番号を発行します。事業者は番号が発行されることによって民泊仲介サイトへの登録など、営業活動を開始することができます。
届出番号を発行するということは外部的には行政が認めた施設と認識できることから、消防法を含め、適法な施設であることが求められます。したがってこの時点までに消防設備を設置して、営業開始日とすることが考えられます。

しかしこの時点を営業開始日とすると、届出番号の発行は自治体が事業者に対して一方的にする行為であることから、事業者は関与できず、自治体の行為によってはいきなり違法民泊とされてしまい、著しく不利益になってしまう恐れがあります。

民泊仲介サイトへの掲載時点

AirbnbやHomeAwayなどの民泊仲介サイトに施設を掲載することで、多くの宿泊客を獲得することが期待できます。民泊仲介サイトは、昨年2018年6月に違法な宿泊施設を掲載削除するよう義務付けられたことから、健全な運営が図られるようになりました。

掲載登録時点で、届出番号や、旅館業の許可取得状況等を確認しますので適法な物件のみを掲載することが可能になったこともあり、消防法に適合していない違法な施設を掲載することは避けたいところです。そういう意味でも、民泊仲介サイト掲載登録する時点で、営業開始とし適法性を確保することが望まれます。
しかし、民泊仲介サイト以外からの宿泊予約ということも考えられますので、サイト掲載時点のみを営業開始日とするとカバーできない施設が出てくる可能性があります。

宿泊者が予約した時点

営業というのは実際に宿泊者が来ることを想定して準備することと考えることもできます。この考えによると、宿泊者が来る予定が立った日(予約した時点)が営業開始日とすることができます。
しかし、宿泊者が予約した時点では、事業者は関与することができません。消防施設が設置されていないにも関わらず宿泊者から予約が来てしまった場合に、いきなり違法民泊とされてしまうとなると事業者にとって著しく不利益になってしまいます。

⑤宿泊者が実際に泊まりに来た時点

住宅宿泊事業は宿泊業であることから、実際に宿泊する時点を営業開始と考えることもできます。やはりここでいう営業行為は、宿泊行為を指すと考えられますので、実際に宿泊されるときが営業開始日であるという考え方ができます。

この考えに基づく場合では、宿泊者が実際に泊まる時点までに消防設備を設置すればよいことになります。

○まとめ

今回は住宅宿泊事業にまつわる「消防法令適合通知書」を中心に紹介してきました。このテーマは自治体によって取扱いが異なり、また法律により管轄する省庁も異なるため、行政も明確な見解ができない箇所も見受けられます。

実際に消防設備にはある程度コストもかかりますので、民泊を始めようとされる際には、その物件が消防法令の基準に適合した設備が設置されているかどうか見極める必要があります。民泊の届出をした後に、消防法令に不適合な物件であるとわかり廃止させざるをえないケースや、消防法令に適合させるために莫大なコストをかける必要がある物件であるケースもあります。

物件購入や賃貸をする前に、専門家の事前診断を受けることも一つの方法です。

参考資料
・総務省 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20180626/180626honkaigi06.pdf
・住宅宿泊事業施行法要領(ガイドライン) https://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdf
・東京都における住宅宿泊事業の実施運営に関するガイドライン案における各規定の考え方 http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/02/02/documents/05_03.pdf

執筆者プロフィール

飯田森(いいだしん)
株式会社ジーテック 国学院大学大学院法学研究科在学中。2016年行政書士試験合格。飛び級で大学院に進学し、主に電子手続きや民泊をはじめとしたシェアリングエコノミーについて研究している。

黒沢怜央(くろさわれお)
株式会社ジーテック 代表取締役、Academic works 代表行政書士、特定行政書士特別委員会委員。2008年、行政書士事務所を開業して以来、多数の許認可業務、企業法務を執り行いつつも、「行政書士ネットワーク」の主宰や、大学、独立行政書士法人、大手資格学校講師として活動。ドローンや民泊といった先端領域のパイオニアとして活動。2018年1月、行政領域におけるITソリューションを軸とした株式会社ジーテックを設立、代表取締役就任。

民泊許可・届出手続きのクラウドサービス「MIRANOVA(ミラノバ)」を提供。

民泊新法・改正旅館業法の取得を後押しする「消防法施行規則の改正案・現行法」とその解説 office OTA.代表/建築士 大田聡