1年4ヶ月間、2016年1月11日号から2017年4月24日・5月1日号まで計64回にわたって不動産業界紙「週刊住宅」に連載された「民泊革命」。掲載用に編集前の元原稿を民泊大学ウェブサイトで復刻し、過去に取り上げた事実が現在どうなっているか、著者のコメントを合わせて掲載します。
簡易宿所の要件緩和で、本当に民泊施設は許可を取れるか?
前号で、4月1日簡易宿所における玄関帳場(=フロント)の設置を望ましいとしていた厚生労働省の通知が見直されるが、従来の通知に基づいた条例が多数の自治体で残り、すぐに玄関帳場不要の運用にならないことを取り上げた。
ある県の元県会議員に話を聞いたところ、通常地方議会は3月、6月、9月、12月に開催され、4月初めの通知見直しなどについては、6月の議会で扱われるので、6~7月に議決されたとして、9月1日改正された条例が施行されることが多いとのことであった。
「民泊サービス」のあり方に関する検討会の中で、厚生労働省は4月1日施行に向けて動いていると説明していたが、それはあくまで国の制度レベルの話で、各地の現場における実際の施行までは、思ったよりタイムラグがあるようだ。
大阪市では、ワンルームマンションで簡易宿所がダメな場合も
これまで簡易宿所の客室面積は33㎡以上が必要だったが、4月1日政令を改正し、1人あたり3.3㎡以上になる予定だ。文言上、客室が10㎡あれば3人の定員の民泊施設が運営できることになる。「ワンルームマンションでも簡易宿所解禁」という報道もいくつかあった。
しかし、例えば大阪市ではラブホテルを規制する目的もあり、1部屋しかない簡易宿所の定員は4人以上にしなければならない。したがって、条例の改正をしなければ、定員3人以下では簡易宿所の許可は出せない。
東京では、ワンフロアにトイレが2つ以上必要?
東京では、客室にトイレがない場合、共同トイレは各階男女別に必要というのが原則である。ある保健所窓口では、2DKの住宅の場合、2部屋あるということは、例えば1部屋に2人の予約が入っていても、同じ日に別の組から予約があれば、旅館法上一定の理由がなければ断れないという。そうなると、トイレは共同トイレと考えざるを得ず、2つ以上必要になるとのこと。トイレ増設は最低40万円程度、配管によっては100万円以上かかる。そうなるとトイレが1つの住宅で民泊の許可を取得するのはかなりハードルが高い。
消防法対応も費用がかかる
今回旅館業法の要件が若干緩和されるが、建築基準法や消防法上の基準は、全く変わらない。住宅と宿泊施設を比較すると、毎日そこで生活している人と、初めてそこで寝泊まりする人では、消火設備や避難経路への慣れが違うので、宿泊施設の方が規制が厳しくなる。そこで、カーテンやじゅうたんは防火対応の物が要求され、自動火災報知機の設置や避難経路の掲示が必要になる。その結果、50万円前後の出費が必要になることもある。
このように、実際の物件に一つ一つ当てはめていくと、普通の住宅で簡易宿所の許可を取得するには、思ったよりコストのかかることが多い。果たして、民泊の許可取得は進むであろうか。
<以上「週刊住宅」2016年3月28日号掲載分>
<筆者のコメント>
11回では、10回に引き続き、「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」の中間報告について解説しました。フロントと床面積について簡易宿所の要件緩和があったが、自治体レベルで対応がないと緩和が実行されないことが、まだほとんど浸透していませんでした。
<筆者プロフィール> 児山秀幸(こやま・ひでゆき) 合法民泊やホステル・ゲストハウスなど簡易宿所の立ち上げや運営支援を手掛ける株式会社TAROコーポレーション代表取締役。旅館業法における「簡易宿所」の営業許可を取得した「タローズハウス鎌倉小町」を運営。Facebookグループ「簡易宿所・民泊ビジネス研究会」の管理人。Airbnbや民泊新法、旅館業法、特区民泊、東南アジア民泊、医療インバウンドなどに関するセミナー・コンサルティングも。
<前回号である第10回記事>